ベーからの手紙    
  No.1 Jul. 15. 2000

 元気ですか?暑さでぐったりしてるけど、僕はなんとかやってます。
 昔は夏になると、頭のてっぺんからつま先まで全身バリカンできれいに
 毛を刈り上げてました。
 (しっぽの先だけ、オシャレにまぁるく残してね。)
 夏はこれに限るよ。


   あのね、大学時代仙台にいた人や転勤して行った人達から,
   「お店がどこに行っちゃたのかわからない。」って言われるんです。
   そう、うちの店は2度も引越しましたから。
   最初のお店があったのが大町(今はホテルの駐車場になっている所)、
   次が少し離れた大手町(もうすぐ広い道路になるんだって)、
   そして、今は再び大町,最初のお店があった場所のすぐそばです。
   近くに西公園という広い公園があって、そこから階段を降りると広瀬川、
   河原の向こうは青葉山。ちっちゃな時から毎日ここを散歩しました。いい所だよ。
   アルバイトをしてくれていた東北大学のお兄ちゃん達とは、山や川、
   いろんな所へ一緒に出掛けました。(僕は海が怖いから、夏でも海には行かない。)
   笹谷峠の近くの河原では、よく焼肉をしたっけ。スイカ割りもね。

   ああ、もう一度冷えたスイカをガシュガシュ食べたい! 
                                今日はここまで、またね。
     
                                           Beethoven 

ベーからの手紙  
  NO. 2 Jul. 25. 2000


 元気ですか?
 今年は雷が多くていやになっちゃうね。



   大きな音がする雷!ザブーンって音がする海,ボンって音がする
   ワン タッチ傘・・・・,僕は大きな音が怖いんだ。僕みたいなのを
   「ガンシャイ」って呼ぶんだって。(ピストルの音が怖いという意 味)

   アメリカンチャンピオンだった僕のおじいちゃん(アメリカのドックショー
   で チャン ピオンになったセント・バーナード)がひどいガンシャイで,
   僕の 母さんもガンシャイ、そして僕、つまり遺伝したんです。
   警察犬の試験では,近くでピストルを撃ってもその音に驚かないかどうか、
    というガンシャイのテストがあります。スイスではセント・バーナードも
   警察犬に指定されてるんだけど、僕は残念ながらなれない。
   (のんびり昼寝してる方がいいよ ね。)
   でも、訓練競技会やドッグショーにはたくさん出ました。
   お兄ちゃん達も一緒に、青森や山形、福島,東京・・・・、あちこちみんなと
   車で出掛けました。
   ドッグショーでは、1才10ヶ月の時に東京インターナ ショナルショーという
   大きな大会でBOB(ベスト オブ ブリード、セント・バーナードの中で
   一番カッコイイってとこかな)に選ばれたから,ショーは若くして引退。
   (のんびり昼寝ができるようになったってわけ。)

                こんな暑い夏はとにかく昼寝だね。 あなたものんびりね。

                         今日はここまで。またね。           
Beethoven   
ベーからの手紙  
  NO.3 Aug. 5. 2000

 元気ですか?
 今日は、まず下の2枚の写真を見て下さい。
 左側が最初のお店の前で撮った写真、僕の鼻の下が赤く傷ついているのが
 わかりますか?
    

   右の写真は霧ケ峰、僕の傷はここでできたんです。
   年に1回、秋になると、霧ケ峰で警察犬の訓練競技の全国大会が開かれます。
   日本中から集まったシェパード・ドーベルマンやボクサー達が、犯人を見つけたり、
   犯人の匂いを嗅ぎ分ける力を競います。
   僕も
「見学」に行ったことがあるんです。
   ひんやりした山の空気、警察犬と訓練士さん達の緊張感、僕も興奮して
   ドキドキしていたら, ・・・なんと!みんなは僕を犬舎(オリです)に閉じ込めて、
   外から鍵を掛けて、全員が車に乗り込んで山を下りて行ってしまったんです。
   大変だ!置いていかれたんだ!
   僕は必死でした。扉に体当たりして、鍵を壊そうと鼻先を何度もぶつけてみました。
   いくら叫んでも、仲間達の吠える声で僕には誰も気付いてくれない。
   水の入った重い食器はひっくり返り、顔から血が流れてきて・・・・
   僕はもう疲れてしまった・・・。

   ふと目を開けたら、みんなの顔がそこにあった。
   お兄ちゃんが僕の頭に手を置いて言った。
   「ばかやろう。温泉に入ってきたんだよ。」

   仙台に戻ってから病院に通ったけど、鼻の下の傷はずっと残りました。

                                     今日はここまで、またね。
                                                  
Beethoven 
ベーからの手紙      
  NO.4  Aug. 19. 2000


 元気ですか?
 もうすぐ、うちの店の誕生日です。



   この僕が生まれたのは1月2日の真夜中。長男の僕が1番先で、
   6頭の弟や妹達は、12時を回った1月3日に生まれました。
   パパとママはひと目で僕を2代目のベートーベンに決めて、
   「売約済」の印に僕は頭の毛をハサミでチョンと切られました。
   兄弟達は、それぞれ秋田へ、東京へ、名古屋へ・・・新しい家族の元ヘ
   離れ離れになりました。
   生後1〜2ヶ月の頃は、「わぁ,可愛い!」と誰もがちやほやしてくれます。
   でも、あっという間に大きくなっちゃって、(元気だった頃の僕の体重は
   70キロ台)「飼えなくなった」「いらなくなった」と、行き場を失くしてしまった
   セント・バーナードを何頭も知っています。
        僕の妹も、そんな理由で横浜から仙台へ戻ってきました。
   だけど妹はなかなかの美人だったから、またすぐに遠くへ
   もらわれていきました。
   妹と一緒に暮らしていたオスのバーナード犬は、宮城県のスキー場で
   過ごすことになりました。
   僕は・・・、みんなが大好きだから、ずっとここにいることに決めたんだ。

     お店は,8月25日で18才です。
 
              今日はここまで、またね。
                               
              Beethoven
ベーからの手紙      
  No. 5 Aug. 26. 2000    


 元気ですか?
 最近、またちょっと左の後ろ足が痛むんだ。子供の頃に病気をした左足。



   ふわふわのぬいぐるみから大型犬へとぐんぐん成長していく時、
   僕達セント・バーナードは体重が一気に増えます。
   足がしっかりしていないと、体の重みに負けてしまいます。
   僕は、幼い時の日光不足で、,左後ろ足がくる病にかかりました。
   左へ曲がろうとすると、体を支えられなくてよろけてしまうんです。
   獣医さんの診断は「とにかくお日様に当たること」。毎日足に注射をして、
   天気のいい日は、外でボーッと日光浴をしていました。
   元気な時は足のことなんかすっかり忘れていたけど、年をとって力が弱ってきたら、
   まず左後ろ足をひきずるようになりました。
   足をひきずると、ツメが石やアスファルトで削られて血が出てきます。痛くて歩けない。
   包帯を巻いても、靴下をはいても、すぐに破けてしまいます。
   病院にも行ったし、人間用の靴をいろいろ工夫してはいてみたけど、
   うまく歩けませんでした。

   ある年のクリスマス、お兄ちゃんと結婚したやさしいお姉ちゃんが、 
   僕の足に合わせて皮の靴を作ってプレゼントしてくれました。
   この靴のお陰で僕はまた歩けるようになり、長生きすることができたんだと思います。
   (セント・バーナードの寿命は普通9〜10才位、長生きをして12才位かな。)
   靴はその後も、赤や黄色、カラフルになって何足も作ってもらいました。

                          今日はここまで、またね。 
                                              
 Beethoven 
ベーからの手紙      
  No.6 Sep.4. 2000  


 元気ですか?
 今年はどんな夏休みでしたか?



   僕もいろんな所へ行ったなぁ。
   お兄ちゃん達に「おまえ、もっとあっち行けよ。」って怒られながら、
   ワゴン車にぎゅうぎゅう詰めで乗って・・・。
   蔵王では、ペンションや大学の山小屋に泊まりました。
   夜は酔っ払ったお兄ちゃんが「べ−、おまえも飲め!」って抱きついてきて
   逃げるのにひと苦労。
   八甲田山から十和田湖も見てきました。奥入瀬川では、車の中からカモシカを
   見つけたみんなが、僕を車に置いて川の方へ飛び下りて行ってしまったっけ。
   今だから言えるけど、夏の夜、大学の広いキャンパスにみんなで歩いて行って
   花火をしたこともありました。
   お兄ちゃんは、お店にいる時は僕の散歩も付き合ってくれました。
   公園で出会った友達に「しゃれたバイトしてるね。」って言われてました。

   一緒に楽しく過ごしたお兄ちゃん達は,今は、東京の美術館、愛知の自動車メーカー、
   仙台の会社や市役所で皆お仕事をしています。
   どんなに大人になっても、僕にとってはいつまでも大好きなお兄ちゃんだ。
    
                                今日はここまで、またね。
                                                    
Beethoven
ベーからの手紙      
  No.7 Sep.16. 2000    


 元気ですか? 
 すっかり涼しくなりましたね。



   僕のお嫁さんは、子犬の時にスイスから飛行機に乗ってやってきた「サンナ」。
   サンナは、日本生まれのセント・バーナードとはちょっと感じが違って、
   体ががっしりしていました。
   サンナと出会って、セント・バーナードのふるさとのスイスアルプスを
   想像してみました。
   結婚はしたんだけど・・・、子供はできませんでした。
   他にも、「僕の子供が欲しい」って申し込みがいくつかありましたが、
   僕の跡取りは残念ながら1頭も生まれませんでした。
   お世話をしてくれた訓練士さんに言われちゃった。
   「ベーちゃん、下手だから・・。」
   ドッグショーで大きな賞を取ったバーナード犬の中には、結婚の申し込みが多くて、
   子供をたくさん残していった仲間達もいます。
   だけど、みんな僕よりずっと早く天国へ行ってしまいました。
   サンナもそう。まだまだ若いうちに、さよならしちゃいました。

   僕のママに赤ちゃんができて、大きなお腹で僕と散歩している時のことです。
   交番の前の大きな交差点の横断歩道を渡っていたら、目の前に立派なドイツ車が
   ピタッと止まりました。黒いガラス窓から顔を出したのは「組」の人。
   誰もクラクションを鳴らさずに、僕達に注目しているのがわかりました。
   「奥さん、子っこ、とんないの?」
   「は?あの、12月に生まれますが・・・・」
   「・・・いや、あんたじゃなくてさ、犬っこよ、犬っこ!」

   子供ができなかったのと、仲間と次々に別れるのは淋しかったけど、
   僕は長生きできて、本当に良かったと思っています。
    
                             今日はここまで、またね。
                                               
Beethoven        
ベーからの手紙      
  No.8  Sep.28. 2000    


 元気ですか?
 青空が気持ちいいですね。



   僕達セント・バーナード犬のふるさとはスイスアルプス。
   山越えの道がまだきちんとしていなかった昔、ベルナールという人がアルプスの山の中に
   僧院を作り、雪道で迷い、倒れた人々を、首に樽をつけた大きな犬と一緒に救助しました。
   Saint Bernard,日本語で言うと聖ベルナール、フランス語読みはサン・ベルナール、
   英語ではセント・バーナード。
   うちの店のコーヒーにこの名前をもらっています。  
   ブルーマウンテンNo.1のブレンドには、ベルナールさんへの尊敬の気持ちを込めて
   「サン・ベルナール」。「バーナードブレンド」は親しみやすいかるい苦味、
   僕達バーナード犬の愛嬌のある性格です。

   山に行ったり、雪が積ってくると体がうずうずするのは、アルプスの血が騒ぐのかも
   しれません。仙台の南のはずれにある大八山牧場にはよく遊びに行きました。
   夏は、僕を見つけた牛達が柵越しにズラッと並んで、大きな目で僕を見つめて
   ちょっと怖かった。冬になると、斜面をそりで滑り下りるみんなに後ろから飛びかかるのが
   最高に楽しかった!そしてゴロゴロと雪の上を抱き合って転げ回るんだ。

   僕は、犯人を捕まえることも、雪道に倒れた人を助けることも出来ないけれど、
   楽しいことでは誰にも負けません。

                                  今日はここまで、またね。
                                                     
Beethoven
ベーからの手紙      
  No.9 Oct.11. 2000.    


 元気ですか?
 朝夕涼しくて、僕達セント・バーナードには過ごしやすい季節です。



   僕がモデルにたなったうちのトレードマーク、このマークを作る時、広々とした牧草地で
   僕の写真をたくさん撮りました。
   (ピクニックの家族連れが来たり、グライダー仲間の集まる畑前採草地というところです。)
   プロのカメラマンの声を聞きながら、僕は座ったり、立ったり、伏せたり、ボールをくわえたり、
   うちのあゆちゃんを背中に乗せたり、いろいろな格好をしました。
   牧草が思ったより伸びていて、足の先は草で隠れてしまいます。
   今度は、首にアルプスの山岳救助用の木の樽をつけてみました。
   これが結構重くて、中が空でも1キロあります。
   (救助の時は、気付け薬としてのお酒を入れます。)
   この樽は、サンナがスイスからやって来た時のおみやげです。
   正面にスイスのマーク、脇にお酒を出すコックがついています。
   樽を首につけた僕をいろんな角度から撮って、「OK!」。トレードマークのデザインの
   元になる写真が出来上がりました。
   そして、デザイナーの方に、僕のイメージに合うように何度も描き直してもらって
   完成したのが、今のうちのマークです。

   アルプスの救助用のこの樽は、うちの店の入口にいる僕と同じ位の大きさの
   セント・バーナードの置物が首につけています。

                                   今日はここまで、またね。
                                                  
Beethoven
ベーからの手紙      
  No.10  Oct.25. 2000.    


 元気ですか? 
 天気がいい日は、仲間と出掛けたくなりますね。



   僕の一番の仲良しは、山形から大学の農学部に来たお兄ちゃん。
   僕はちょっと気が小さくて、初めて会った人にすぐしっぽを振るのはできないんです。
   知らない人に体を触られるのもあんまり好きじゃない。
   でも、このお兄ちゃんは違いました。
   ある日、ぐっすり昼寝をしていたら、突然ドアが開いて男の人が僕を見下ろしていました。
   そしてひとこと、「ヨオ」。僕もなんだか「ヨオ」って気持ちになって、
   しっぽをパタパタ振りました。それで決まり!
   お兄ちゃんとは、ずっと昔から友達だったみたいな付き合いになりました。

   もう一人、ひと目で気を許せた人がいます。
   講演のために仙台にやって来た、小説を書いている真理子さんという人です。
   (アナウンサーだった僕のママが講演の司会をしました。)
   仕事の合間にうちの店に遊びに来てくれました。
   そばにしゃがんで「こんにちは」って言ってくれたその人のふっくらしたお膝を見ていたら、
   僕は膝枕したくなっちゃって、そっと頭を乗せました。僕を膝枕したまま、
   フルイを抱えてコーヒー豆の選別をしているお兄ちゃん達に、彼女は声をかけました。
   「豆を選んでるんですか?」  
   お兄ちゃん達ったら、「おまえ答えろヨ」「やだヨ」って
   肘で突つき合ってちゃんと返事しないんだから。
   僕は、ふっくらした女の人って、ほんわかしていいなぁーって思ったのに。

   いろんな仲間がいるけど、「ヨオ!」で気持ちが通じ合う友達っていいですよね。

                                今日はここまで、またね。
                                                 
Beethoven
     「 創業から約2年は1杯180円の試飲コーナーがありましたが
                                    現在は豆売りだけのお店です。」