ベーからの手紙      
  No.91 SEP.24. 2003

 元気ですか?
 この前の手紙でヨハンの散歩コースを紹介しましたが、
 実はあの後、歩く道順を毎日少しずつ変えるようにしてるんです。
 理由は、これまでに何度もヨハンに飛びかかってきた犬に、
 また噛みつかれたからです。

   しばらく前にもお話したけど(「べーからの手紙」No.79)、元気だった頃は僕も毎日歩いていた
   西公園は、昔と比べると犬を散歩させる人達のマナーがほんとに悪くなって、
   安心して歩くことができなくなってしまいました。
   あっちにも、こっちにも、放されて走り回っている犬がいます。
   そして残念ながら、そういう犬は、きちんとしつけをされていない場合が多いんです。
   (僕から言わせてもらえれば、飼い主の人間の方もね。)
   その中の1頭に、歩道も、歩道橋も、いつも引き綱をつけないまま犬だけで自由に歩いている、
   中位の大きさの茶色い雑種の犬がいます。
   ヨハンを見つけるとピタリと立ち止まり、ヨハンの行く先の道の真ん中から、
   こちらをじっと見つめます。
   引き綱をブラブラと手に持って、ずっと後ろを歩いている人に声をかけても、いつも知らん顔。
   いつかなんか、小学生の男の子がその犬に追いかけられて恐がってしまい、
   飼い主の人を注意したお母さんが逆に怒鳴られて、震えていました。
   この雑種の犬と、ヨハンを噛んだ小型犬のシーズーは仲良しで、
   ほとんどいつも一緒に散歩しています。

   土曜日の夕方、ヨハンは、阿部お兄ちゃんと散歩に出ました。
   前にシーズーが突進してきた時も、お兄ちゃんが引き綱を持っていました。
   あの時は、ずっと遠くからヨハンめがけて突然ダッシュ!
   何度も向きを変えて避けようとするこちらを、しつこく攻撃してきました。
   黙って見ているだけで謝りにも来ない飼い主の女性を、お兄ちゃんとママは怒りました。
   謝らないどころか、やっとの思いでシーズーを捕まえたお姉ちゃんに、「やめろ!」と
   仲間の小柄な男の人が近寄って来たんです。

   そして、今回。
   「放されている犬はいないね。」 公園の中で角を曲がる度に確認し、広瀬川へ続く階段を
   下りて行きました。 ふと、後ろに気配を感じました。
   振り向くと、あのシーズーが毛をなびかせて駆け下りてきます。 目的は、ヨハン!
   見慣れた飼い主と2人の仲間が、向こうの歩道橋にいます。
   「逃げよう!」  ヨハンとお兄ちゃん、ママとひろちゃんは階段を急ぎました。
   でも、あっという間に追いつかれ、シーズーはキキーッと方向転換。
   「ガウーッ!」  声を上げてヨハンの下脇腹に飛びかかって噛みつきました。
   ママは、もう1度ヨハンに襲いかかろうとするシーズーを必死で捕まえました。
   「犬、返してよ。」  悪びれた様子もなく手を差し出す小柄な男の人に、
   お兄ちゃんも本気で怒りました。 「今回は、勘弁するわけにはいかないな!」
   「たまたま放れただけだ。 いつもは、ちゃんとつないでるよ。」
   「・・・・一緒に交番に来て下さい。 『2度と犬を放しません』と誓約書を書いて下さい。」

   ママがシーズーを連れて、ぞろぞろと全員で交番へ向かいました。
   ところが、運悪く大町交番のおまわりさんはパトロール中。
   ドアには鍵がかかっていました。
   交番の前に座って待ちましたが、なかなか帰って来ません。
   そこへ現れたのは、大柄な1人の男。
   「こんな小さな犬が、あんな大きな犬を噛んだから、なんだっつうんや!
    大怪我でもしたんか! 俺の仲間や。 俺が話つけたるわ!」
   男は、小学生のひろちゃんの前で、袖の奥の腕の入れ墨をちらつかせました。
   この時ようやく、いつも犬を放しては公園でトラブルを起こしている人達の関係がわかりました。
   茶色い雑種は、この入れ墨男の犬。 みんな、この男の人の仲間。
   小柄な男の人は、公園で生活をしているホームレス、仲間達の犬の散歩を請け負って
   生活しているんです。

   「宮城県では、県の条例で犬の飼い主は犬を係留することが義務づけられています。
    係留の意味がわからない? つなぐ、ということです。
    そのことだけでも、あなたは県の条例違反なんですよ。」
   ようやく戻ってきたお巡りさん達は、住所や名前を書かせた後、シーズーの飼い主の女の人を
   諭してくれました。
   「私達は犬のことはよくわからなかったんですが、今回の件で、小さな犬が大きな犬を
    襲う習性が理解できました。同じようなトラブルを防ぐために、各交番へ
    回覧で報告しておきます。」

   春に転勤して行った、ヨハンの友達だったおまわりさん、
   大町交番からの回覧を読んだら、「ヨハン君、またやられたんだ。」って
   心配しちゃうかもしれないね。
                              今日はここまで、またね。
                                     Beethoven

パパは、花摘みだけど・・、

僕は、かけっこしたい!

フンフン・・・彼岸花ね。

ひろちゃんが持っているのは、ススキ。
ベーからの手紙      
  No.92 OCT.8. 2003

 元気ですか?
 どういうわけか長旅の航空便、イタリアの郵便局からちょうど
 1ヶ月かかって、待ち焦がれていた雑誌がようやく届きました。
 イタリア・セント・バーナード・クラブ、AISBのクラブマガジン8月号です。


    7月に、イタリアから日本へやって来たマーキュリー君、Yさんの家族の一員として、
   しあわせに、そして順調に成長しているようです。(「べーからの手紙」No.86〜88)
   ブリーダー(繁殖者)のヴィットリオさんからは、3ヶ月たった今でも、マーキュリーを
   心配するメールが時々来ます。
     「何かマーキュリーのニュース、ある? マーキュリーはどうしてる? 元気かな?
      君達、もうマーキュリーに会った? 様子を教えて。」
    日本へ旅立つのはこの子がいい、とマーキュリー君を選んでくれたのは、
   ヴィットリオさんの友人のグイドさんでした。
     「長い目で見てほしい。最後に1番良くなるのは、きっとマーキュリーだ。
      成長した時にそれがわかる。その時が来るまで、たくさん歩かせてくれ。
      でも、骨が柔らかいうちは、ハイ・ジャンプや無理な走りはいけないよ。」
   4月に一緒に生まれたマチルダを新しい家族にしたグイドさんも、
   ずっとマーキュリー君のことを気にかけています。
   Yさんの家の庭で、ゴールデン・レトリバーと元気に駆け回るマーキュリー君の写真を
   イタリアの2人に送ったら、すぐにメールが届きました。
     「無理な走りはいけない、と言ったはずだよ!
      まだ骨が柔らかいんだ。生後18ヶ月までは慎重にしないといけない。」
   成長を見守る厳しい忠告に、セント・バーナードへの深い愛情を感じます。

    原種としてのセント・バーナードの改良を目指すヴィットリオさんは、はやる気持ちを
   なかなか抑えられないみたいです。
     「マーキュリーが、日本のショーでビッグタイトルを獲得できるといいな。
      ねぇ、マーキュリーとUSAのメスとの交配で、いい子犬が生まれると思うんだ。
      マーキュリーには、彼らのバランスの良さが必要だし、
      彼らには、マーキュリーのようなタイプが必要だ。」
   ヴィットリオさんったら、ようやく生後6ヶ月になったばかりだよ。
     「ところで、マーキュリーの体の動きはどんな具合かな? 問題はないかい?
      私は、セント・バーナードの動き(歩き方や走り方)も改善しようと試みているんだ。」
   Yさんは、長い間眠っていたビデオカメラを持ち出してくれましたが、
   調子が良くなくて動かなかったそうです。
   そのうち、ランニングしているマーキュリー君を撮影してくれるそうだから、気長に待っててね。
     「やぁ、Yさん、マーキュリーのビデオ、ありがとう!」
   ヴィットリオさんったら、撮影は、まだだってば・・・。

    さて、イタリアのクラブマガジンの8月号。  マーキュリー君は、トップ記事だ!
   ハッピにねじり鉢巻姿の彼の写真の下に、「阿波踊り」の紹介が書いてあるね。
   ミラノ空港出発前の写真、日本の家に到着してすぐの、ジャック君と一緒に撮った写真。
    どうして、日本のYさんがイタリアからセント・バーナードを輸入しようと思ったのか、
   そして、ヴィットリオさんの犬舎でちょうど子犬が生まれたこと、
   マーキュリー君の航空運賃が、目が飛び出るくらい高かったこと、
   (最初、グイドさんはその金額が間違いだと思って航空会社に確認し、
    「ウソだろ!」と叫び、いくつもの会社に見積もりを頼んだそうです。日本の会社にもね。
    そしたら、料金はどんどん高くなっていったんだって。)
   それから、マーキュリー君への期待・・・。
   そうそう、マチルダとヨハンの写真も載っていました。
    2002年4月号の翻訳をしてくれた高梨お兄ちゃんに、また記事を訳してくれるように
   お願いしました。 お兄ちゃんは仕事でとても忙しいから・・楽しみに待ちましょう!

    ヴィットリオさんからは、こんなメールも来るんです。
     「君の今の犬は、実にいい犬だ。
      見事な骨格のバランス、輝くような毛の色、非常に気に入った。
      どうだろう? 君の犬と、イタリアの私のメスを掛け合わせると、
      きっと理想的なセント・バーナードが生まれると思うんだが。」
          ヴィットリオさんったら・・・・。

                                     今日はここまで、またね。
                                     Beethoven

目次 (左下がマーキュリー君)

阿波踊りは有名なダンスの祭り

モッラ・ファミリーの紹介も。
ベーからの手紙      
  No.93 OCT.29. 2003

 元気ですか?
 イタリアから、飛行機に乗って日本へやって来たマーキュリー君、
 彼は自分では気づかぬうちに、日本とイタリアの男の人達の
 友情の輪を広げてくれています。


   マーキュリー君を家族の一員にしたYさんは、イタリア・セント・バーナード・クラブ AISBの
   ホームページのゲストブックに、英語でご挨拶の書きこみをしました。
     「 みなさんのご親切に感謝します。 興味深い雑誌をありがとう。
      マーキュリーは、とても可愛い目をしています。
      そして、人にも犬にも、とても愛想がいいんです。       」
   イタリアの人達は、なんとかして気持ちを伝えようとする相手を大歓迎してくれます。
   クラブマガジン編集長のグイドさんから、すぐにYさんにメールが届きました。

     「  Yさん、こんにちは。
      私はマーキュリーの姉妹のマチルダの飼い主、そしてヒロシのイタリアの友人です。
      マーキュリーが順調に成長しているとの報告を喜んでいます。
      ここイタリアで、セント・バーナードの子犬を選定し、そして子犬の関節の健康状態を
      保証するのは、私にとってかなりの重責でした。
      最近でも、セントのレントゲン検査を受ける繁殖者は、まれなのです。
      とにかく、私達の子犬の両親犬は、関節の状態は良好です。
      母犬のアリアンナは、後ろ脚をちょっと外に開いて立ち気味です。
      でも、こちら(イタリア)では、多くのセントにこの弱点があり、
      特にドイツの血統が入っている場合はそうなのです。
      だから私のマチルダは、やっぱり、ほんの少し後ろ脚を開いて立ちます。
      (注 父犬のクリフはドイツの犬)
      ま、完璧さを手に入れるのは無理ですけどね。
      マチルダの体重はおよそ40kg(この子は、生まれた子犬の中で大きめのメスでした。)、
      顔立ちはいいし、なつこくて可愛い性格です。
      今は1日にドライフードを700g、それにカルシウム剤をちょっと混ぜて食べています。
      マチルダは、しょっちゅう走りたがりますが、私は、彼女の元気さにストップをかけます。
      柔らかい骨が心配ですからね。
        私達の子犬が、お互いにたくましく、そして健康に育ちますように。
                                            グイド・ザネッラ     」

   その次にYさんは、マーキュリー君の繁殖者、ヴィットリオさんのホームページの
   ゲストブックへもご挨拶。
     「 私は、マーキュリーの日本の父です。」
   もちろん、ヴィットリオさんは大喜び!
     「 やっと、あなたと話せてよかった。
      写真からでは動作がわからないけど、マーキュリーがいい動き(歩き方)を
      しているといいんですが。
      でも写真で見ると、年若いセント・バーナードとして非常に模範的だし、
      体のサイズもとても大きいと思います。
      ところで、あなたのジャック君は悪くないですね。気に入りました。
      いい頭の作りだし、体の構成もいいですよ。
         奥様と息子さんにもよろしく。    
                                            ヴィットリオ   」

   いつもイタリア語の翻訳をしてくれている高梨お兄ちゃんにも、
   ヴィットリオさんからメールが届きました。

     「 みつさん、
      ようやくイタリア語を話せる日本人と知り合いになれて、うれしい限りです。
      私の英語は極めて限られているので、ヒロシとやり取りするにも
      最小限の言葉に抑えて簡便にせざるを得ません。
      お願いですから、メルクーリオの成長に関して引き続きお知らせいただけると幸いです。
      Yさんにはご満足いただけたらうれしいのですが、なにせセントバーナードは
      子犬の時に、成犬になった時の状態を予測するのが非常に難しい犬種ですので、
      しばしば成犬になってからがっかりさせられることもあります。それに対して、
      何てことはない子犬が、大きくなってから素晴らしく変身することもあります。

      今回のメールの目的は他にあります。
      日本は、何せ、我々にとってはオーストラリアと変わらず遠い国で、
      まさに地球の反対側です。おそらく、我々は日本という国と、日本人に対して、
      大きく歪んだ偏見を持ってるので、ヒロシはまさに驚きで、
      こんなに気さくで、こんなに我々と同じような、ヨーロッパ人と同じような
      人だとは思いも寄りませんでした。
      今は、みなさんも普通の、他のイタリア人やヨーロッパ人と同じなんだと納得しています。
      ヒロシに、くれぐれも私の親愛の情を伝えて下さい。
      自分もベートーベンの書きこみに参加したいと思っています。
      きっと楽しいことだろうと思いますが、いかんせん日本語は分かりませんし・・・。
      これからも、一層お互いを知り合えるようになれますように。
                                            ヴィットリオ・ファッブリーニ 」

   ヴィットリオさん・・・、いったい、日本人はどんな人達だと思っていたのかな?
   まだまだ続く、イタリアと日本とのメール。
                         長くなったから、今日はここまで。 続きは、またあとでね。
 
                                  Beethoven




ベーからの手紙      
  No.94 NOV.13. 2003

 元気ですか?
 だいぶ寒くなってきましたね。
 さて今回は、イタリアと日本の男達の友情メールの続きを
 ご紹介しますね。


   日本で成長しているマーキュリー君がどんな歩き方や走り方をしているのか知りたい、
   というヴィットリオさんのために、Yさんはビデオを撮影してくれました。
   うちのパソコンでは、残念ながらこのビデオを観ることができませんでした。
   ヴィットリオさんは大丈夫だったのかな?
    「私のパソコンでもやっぱりだめだったよ。 だから、私のホームページを作ってくれている
     ウェブマスターの所へ出かけて行って見てきたんだ。」
   Yさんの元へは、すぐにイタリアからビデオの感想が届きました。
    「この時期にとても背が高くなる犬として、マーキュリーはいい動きをしていますね。
     動画で見る限り、前脚(の状態)はいいし、後脚もやっぱりいいんですが、
     後ろは、もっと強くした方が良いと思います。
     生後15ヶ月になるまでは、マーキュリーを太らせないで下さい。
     これは、とても大事なことです。
     今は、マーキュリーは太っていない、完璧です。
     後脚に関しても問題があるわけではないし、マーキュリーは、きっといい犬になりますよ。
     でも、英語で説明するのは楽じゃないので、後脚については、
     みつさんにイタリア語で説明していいですか?」

   くわしく伝えたい時は、やっぱり高梨お兄ちゃんが頼りです。
     「チャオ、みつ
     手伝ってくれてありがとう。
     ヒロシとは、これからもずっと連絡を取り合うよ。
     もっとも、英語じゃ、俺も言いたいこと言えないけどなぁ。
     マーキュリーの動画を見たよ。良い犬だし、背も高い。
     でも、後ろ脚がずいぶんと細い感じがする。6ヶ月でどでかくなる犬としては、普通だけどね。
     ヒロシに、俺がYさんにひとつ伝えたいことがあるって、言ってくれるか?
     マーキュリーは、紐なしで坂道を自由に歩かせて後ろ脚を鍛えるとずっと良くなる、と。
     河原の砂利道なんかが1番良いのだけど。
     日本では、アメリカ系のセントバーナードが一般的らしいけど、
     ヨーロッパ系のはずっと大きくなるから、良く運動させる必要があるんだ。
     マーキュリーは、あの俊敏さからすると、きっと良い犬になるよ。

     頼むから俺のことはヴィットーリオと呼んでくれ。
     お互い『トゥ』でやろうじゃないか。 (注 イタリア語の『あなた』には、
     尊敬をこめた『レイ』と、親しい者同士が呼び合う『トゥ』があります。)
     もしイタリアのもので必要なことがあったら、遠慮なく言ってくれ。
     ありがとな。
                 ヴィットーリオ                        」

   実はYさんは、来年ヨーロッパへ出かける予定があるそうです。
   そのついでに、スイスのサン・ベルナール峠とイタリアにも行きたい、と
   ヴィットリオさんに伝えたら・・・。
    「じゃ、今度、私の家で会いましょう。
     今週には、マーキュリーの血統書がそちらに着くと思います。」
   ヴィットリオさんの家で会うことが、もう予定に入っちゃったみたい・・・。

   そして、イタリア愛犬協会発行の血統書とヴィットリオさんの名刺が
   マーキュリー君の家に到着しました。
   Yさんは、ちょっとひと工夫。
   自動的に翻訳をしてくれるホームページを利用して、ヴィットリオさんに
   イタリア語でメールを送ってみました。
   それは、こんな内容でした。
    「郵便届きました。 ボール紙、どうもありがとう。
     もし私のイタリア語が正しくなくても、許してね。」
   イタリアからの、心あたたかい返事です。
    「君のイタリア語を心配することはないさ。
     俺の日本語よりは、すっとましだから。 」

   ヴィットリオさんは、パパにこう言ってきているんです。
    「君、イタリア語の勉強をしろよ。
     俺が日本語を勉強するより早いからさ。」
  
                                    今日はここまで、またね。

                                         Beethoven
大橋と、橋の向こうが青葉山
仙台市天文台
夏は、プール客で賑わいます
プールの向こうが広瀬川
ベーからの手紙      
  No.95 DEC.9. 2003

 元気ですか?
 仙台は雪がちらついて、ずいぶんと寒くなりました。
 最近の北イタリアの朝の気温は16℃、
 「いい”秋”だよ。」と、ヴィットリオさんからの便りです。


   ヨハンが家族になってから、もうすぐ2年が経ちます。
   ヨハンは、パパを絶対的に信頼しています。
   うちへ来る前、ヨハンが一体どんな暮らしをしていたのか、
   どんな事情があって前の家族と別れたのか、
   それは僕達にもわかりません。
   2年前に突然うちへやって来たヨハンは、体がほっそりとして小さく、
   まるで女の子のようでした。
   あまり歩いていなかったらしく、少しの運動でもすぐに肩で息をしていました。
   食べ物にはとても気難しく、食事を残さずに食べるようになるのには
   時間がかかりました。
   今はもう、どこから見ても、すっかりうちの家族です。 いいところも、悪いところもね。
   この間、ひろちゃんがこんなことを言っていました。
   「べーが死んで、おばあちゃんが死んじゃってしばらくの間、
    うちは暗い家族だったよね。 
    ヨハンが来てから、また明るくなってうれしいな。」
   僕も・・そう思います。 ヨハンと出会えて本当に良かった、って。
 
   ヨハンのように、大人になってから家族と別れなければならないセント・バーナードは、
   昔からいました。
   訓練所では、よくある話、だったんです。
   鳴き声がうるさい、と近所から苦情が来て、訓練所へ預けられた小柄なメス。
   しばらくすると、「もう犬はいらないので、そちらで引き取ってくれないか?」
   ”ジャイアント・バーナード”と呼ばれていた古いイギリスタイプの大きなオスは、
   散歩に手を余した家族が、訓練のために連れて来ました。
   訓練所を卒業間近になった頃、「犬がいない生活に慣れてしまった。もう欲しくない。」
   とても警戒心が強く、初めて会った人には、とにかく吠えかかったり、
   飛びかかる犬もいました。
   彼は新しい家族が見つからず、結局、訓練所で一生を過ごしました。
   (こういう犬達は、”居候犬”と呼ばれます。)
 
   今は、居場所をなくした動物達のために新しい家族を探してくれる
   ”里親ボランティア”という人達が、日本中にいるんですってね。
   パソコンをのぞいてみたら、「動物の里親募集」のホームページもたくさん・・・。
   そう言えば、新聞にも、時々こんなお知らせが出ていたっけ。
            「命は、人間だけに与えられたものではありません。
             可哀想な犬・猫達を、どうか助けてあげて下さい。」
   仙台では、里親になるのを希望する人と動物達がお見合いをするイベントも、
   広い会場で開かれているみたいです。
   でも、プロの訓練士さん達は厳しい表情でこう言います。
   「成犬になってから手放される大型犬は、犬自体に何か問題があった場合もある。
    セント・バーナードの成犬、特にオスの里親になるのは、そう簡単な話ではない。」
 
   ヨハンが外を歩いていると、いろんな人から声をかけられます。
          「かわいい」 「セント・バーナードって、おとなしいのよね」
          「憧れの犬なんです」 「うらやましいな」
   でもヨハンだって、決して最初から心を開いてくれたわけじゃありません。
   初めの頃は、パパに向かって吠えたり、ひろちゃんを横目でにらみながら
   唸ったこともありました。
   そんなヨハンを本気で怒り(もしかすると、パパとママがセント・バーナードとの暮らしに
   慣れていたからこそ、できたことかもしれませんが)、そして心から愛し、
   1年・2年と長い時間をかけて、お互いに信頼できる家族になれたんです。
   大きな犬と暮らしたことのない人達が、突然セント・バーナードの成犬を
   家族の一員にするのは、”憧れや夢”だけでは難しい、と僕は思います。
   僕達は体が大きいだけに、もしも何かトラブルが起きてしまった時、
   家族全員が真剣に立ち向かってくれる覚悟がないと、ね・・・。
   だって、里親の橋渡しをしてくれる人達が、家族になった後のお世話を
   してくれるわけじゃないでしょ?
   大きな犬をどうしたらいいかわからなくなっちゃって、また手放す、なぁんてことが
   起こらないように、家族みんなでよ〜く話し合ってから決めて下さいね。
   セント・バーナードを飼うかどうかは。

   ヨハンとのんびり暮らすうちの家族に、イタリアから可愛い女の子の写真が
   届きました。
   パパがとても気に入っていた”ノラ”、今、生後4ヶ月です。
   「か、かわいい! やっぱり、いい犬だ。」
   ヴィットリオさん、お願いですから、どうかパパの心を揺さぶらないで下さい・・・。

                                  今日はここまで、またね。
                                              Beethoven


ベーからの手紙      
  No.96 DEC.31. 2003

 元気ですか?
 今日で、2003年はおしまいですね。
 24日の夜には、いつもの年と同じように、青葉山の半導体研究所の
 大きな大きなモミの木のクリスマスツリーを見に行きました。
 雪は降らなかったけれど、静かで、きれいな夜でした。

   28日、日曜日には、北海道の室蘭からヨハンの友達が2頭、
   仙台へ遊びに来てくれました。
   姉さん女房のバディちゃんと、まだまだ若いベルナルド君。
    「ヨハン君、こんにちは!」
   ベルナルド君は、元気にヨハンにご挨拶。
   びっくりしたヨハンは、慌ててパパの背中に隠れてしまいました。
   しょうがないなぁ、まともに挨拶もできないのかい?
   ヨハンには、もう少し「世間」というものを教えてあげなくちゃいけないね。

   休日の公園を、3頭で一緒に散歩することにしました。
   ヨハンが毎日歩いている道。
   西公園の桜の木の下を通って天文台へ、階段を下りると大橋が見えてきます。
   いつもは外国の人達が自転車でやって来る仙台国際センターも、お正月休みで
   シーンとしています。
   歩きながらおしゃべりしているうちに、ヨハンもようやく打ち解けてきたみたいです。
   そして、つい調子に乗って・・バディちゃんのお尻の匂いをフンフンかぎ出しました。
    「いやっ!」  見事にひじ鉄。
   やれやれ、女の子とのお付き合いのマナーも教えなくちゃ。
 
    「みんなで写真を撮ろうよ。」
   芝生の上に並んで記念写真。 今度こそうまくやれよ、ヨハン。
   さて、バディちゃんの隣に座った彼は、ブルブルンッ!、と思いきり顔を横に振って、
   可愛い彼女にヨダレを飛ばしてしまいました・・。
    「もう、いやっ!」
   まったくもって、世間知らずなヨハン君。 3月には5才になるというのに。
   セント・バーナードの5才と言ったら、男盛りじゃないか。

   まぁ、ヨハンのことはともかく、今年は、外国の人達とのお付き合いが広がって
   楽しい1年でした。
   アメリカやエストニア、ドイツのバーナードのブリーダー(繁殖者)さんから
   メールが届きました。
   育てている犬の種類は違っても、イタリアやポーランドの人からも・・。
   そして思ったこと。
   日本の人達は、もっと自分の英語に自信を持ってもいいんだって。
   英語以外の言葉を使うヨーロッパの人達は、少しくらい間違っても、
   ううん、たくさん間違っても、相手と話をするためには堂々と英語に挑戦します。
   初めの頃は「私は英語が得意じゃないから。」と尻ごみしていたイタリアの
   ヴィットリオさんも、必要に迫られて何度もパパとのメールのやり取りを経験したら、
   すっかり変身。
   今では、彼の方から便りをくれるようになりました。
   新しい友達ができて、うちの家族も喜んでいます。

Merry Christmas and Happy 2004
 

from Guido Zanella (AISB - Italy)
www.aisb.it

      2004年は、どんなことが待っているのかな。
              今から楽しみです。

                                 今日はここまで、また来年ね。
                                             Beethoven


ベーからの手紙      
  No.97 JAN.17. 2004

 元気ですか?
 ここ2〜3日、仙台はとても寒い日が続いています。
 ヨハンは元気そのもの、公園の水道が凍結防止のために
 止められてもなんのその、雪を食べながら散歩しています。


   この間、あゆちゃんが、ヨハンの犬舎を見ながらこう言っていました。
    「2年前、家に来た日にヨハンがこの扉のすきまから外へ出ちゃったなんて、
     うそみたいだね。 ( 「べーからの手紙 No.48 」 )
     今のヨハンの体では、絶対に無理だもの。」
   ほんとにその通り。
   うちの家族になる前の数ヶ月間を訓練所で過ごしていたヨハン、
   「ここまで太らせるのに苦労した。」と訓練士さんが話していた2才のその時でさえ、
   フサフサと長い毛でおおわれている体は、まだまだ華奢でした。
   今は、年を重ねてそれなりの貫禄も出てきたし、セント・バーナードらしい
   体の太さもあります。
   毎日の運動で体力はグンとついたし、脚もずいぶんと丈夫になりました。
   初対面の日、訓練所の校庭にヨハンをきちんと立たせて、訓練士さんは言いました。
    「ガリガリにやせていたから、お陰で、逆に後ろ脚が壊れていない。
     太らせて脚をだめにするよりは、ずっといい。」
   2年前のヨハンの課題は、まず体力作り。支える力が弱い後ろ脚に筋肉をつけなくちゃ。
   とにかく歩いて、歩いて、体力と筋力をつけるためにひたすら歩きました。
   残る心配と言えば、年を取ってからのことです。
   子供の頃から脚を鍛えていた僕と違って、2才までの大切な成長期に
   栄養不足と運動不足だったヨハン。
   年老いてから、後ろ脚の弱さが出てくるかもしれません。
   歩けなくなることが、僕達は1番恐いんです。

   去年の夏、イタリアから日本へやって来たマーキュリー君。
   子犬の選定を任されたグイドさんは、正直言って頭を抱えたそうです。
    「責任が重過ぎるよ。できるだけのことはするけど、
     子犬の脚の完全な保証は無理だ。」
   そして、グイドさんとブリーダー(繁殖者)のヴィットリオさんは、何度も、何度も、
   メールで念を押しました。
    「とにかく歩かせること。 絶対に太らせないこと。
     骨が柔らかい成長期は、骨に衝撃を与えるような無理な運動は避けること。
     脚の病気は、遺伝によるものだけじゃないんだから。」
   ヴィットリオさんは、未知の国、遠い日本へ子犬を手放すことに大きな不安が
   あったそうです。
    「日本人って、どんな人達だろう? 飼い主となるYさんは、どんな人なんだろう?
     育て方ひとつで、犬は良くも悪くも、どんな風にでも変わってしまう。
     それを見てきているだけに・・・。」

   本当に、とても難しいみたいです、僕達の脚の問題は。
   ヨーロッパでは、遺伝を防ぐためにレントゲン検査を義務づけている国もあるけど、
   たとえ両親に何の問題がなくても、生まれてまもない時はしっかりした脚でも、
   その後の育つ環境で、病気になってしまうのは簡単なんです。
   Yさんは、イタリアからのアドバイスに従い、毎日マーキュリー君を
   歩かせてくれています。
   ヴィットリオさんが、「後ろ脚を鍛えるために坂を登らせるといい。」と言えば
   山の斜面を登らせ、「海岸を走らせるといい。」と言えば、
   マーキュリー君は砂浜を走ります。

   もし歩けなくなったら・・・、それは、山を駆け回るセント・バーナードとして生まれてきて、
   とても、とても、つらくて悲しいことです。

                             今日はここまで、またね。
                                             Beethoven


ベーからの手紙      
  No.98 FEB.5. 2004
 元気ですか?
 2004年になってから、仙台は寒い日が続いています。
 雪も、ずいぶんと降りました。
 12月には秋のような暖かさだったという北イタリアも、
 最近の朝の気温は−6℃、雪も積もって、
 セント・バーナード達は大喜びだそうです。

   今日は、先に下の写真を見て下さいね。
   左は、まもなく生後9ヶ月、日本生まれのアンディちゃん、
   右は、まもなく生後10ヶ月、イタリア生まれのマーキュリー君です。
   どう思いますか? この写真。
     セント・バーナードじゃないみたい。 ヒョロッとしている。
     バーナード犬のイメージと違う・・・。
   どっしりとしたセント・バーナードのイメージに近づけようと、この時期に、
   ついつい太らせてしまう飼い主さんが多いみたいなんです。
   僕達の骨の成長は、だいたい、生まれてから18ヶ月位まで続きます。
   大人としてのりっぱな骨組みが出来あがるまでは、厚みのある肉をつけるのは、まだまだ!
   「見た目が貧弱だ。」なんて人から言われても、じっと我慢です。

   写真の2頭の仲間は、後脚を後ろに引いて立っていますよね。
   脚が強い犬は、自然とこういう立ち方をすることができます。
   ドッグショーのハイライトシーンの「きめ」のポーズを取る時は、さらに後ろ脚をグッと下げます。
   この「後ろ脚の引き」が、なんでもないように見えて、実は、なかなか難しいんです。
   脚に筋肉がないと、つらくてじっとしていられません。
   すぐに、後ろ脚を、自分にとって楽な位置に戻そうとして、棒立ちになってしまいます。

   それと、2頭とも、横から見た背中の線が真っ直ぐでしょ。
   これも、僕達にとって大切なことの1つ。
   真っ直ぐな背線は、太っていないことと、体を支える背筋がしっかりしている自信の現れです。
   背中の筋肉が発達していないと、背骨の両側へ「ぜい肉」がダラーッと下がってしまうんです。
   もう1つ、大事なことは、お腹の線。
   お腹の線は背中とは逆に、真っ直ぐになったら「太り過ぎ注意!」の赤ランプ。
   前脚の付け根から後ろ脚へかけての線が、切れ上がるように流れているのが
   いい男・いい女のポイントです。
   これは何も、ショードッグになるためだけに必要なことではありません。

   生まれてからおよそ1年半の大切な成長の時期は、太っていないか、筋肉がついて
   きているかを見守りながら、僕達が大人になるのを、どうか焦らずに待って下さい。
   マーキュリー君へのイタリアからのアドバイスにもありました。
     「成長期は、見た目にまどわされてはいけないよ。」

   セント・バーナードがたくさん過ごしていた、僕が勉強した訓練所で、
   昔、こんな出来事がありました。
   ある日、「楽に散歩ができるように訓練をお願いしたい。」と、1頭のバーナード犬が
   やって来ました。
   彼は既に大人、残念ながら太り過ぎて、自分の巨体を持て余している様子でした。
   仲間達が校庭で元気に動き回るのを見て、つい、自分も同じようにはしゃぎたくなったのかも
   しれません。  あっという間の出来事でした。
   彼は突然倒れ、そして・・・息を引き取りました。 心筋梗塞でした。

   イタリアのヴィットリオさんが育てる成長期のセント・バーナードは、
   体が引き締まっていてスリムです。
   彼は、つい最近、こう言ってきました。
      「とにかく、太らせちゃいけないよね。
       セント・バーナードは、” pig ” じゃないんだからさ。
       彼らは、” working dog ” (使役犬・作業犬)だよ。」

                                   今日はここまで、またね。
                                                 Beethoven
9ヶ月のアンディ (盛岡)
10ヶ月のマーキュリー (徳島)
1才3ヶ月の僕 (2代目ベートーベン)


2才位の僕の父さん (デンカ)
ベーからの手紙      
  No.99 FEB.25. 2004
 
 元気ですか?
 だいぶ暖かくなる日もあるけれど、仙台では、まだまだこれからも
 雪が降ります。
 春が近づいてから雪がたくさん積もることもあるから、
 風邪をひかないように気をつけないとね。

   雪のアルプスの救助犬、というイメージがあるセント・バーナード。
   でも、僕達だって寒い季節には風邪をひきます。
   鼻水が出たり、くしゃみをしたり、食欲がなくなったり、下痢をしたり、
   せきをすることもあります。人間と同じです。
   病院へ行って薬をもらったり、注射をしたり、点滴したり・・、やっぱり、人間と同じ。
   特に年を取ってからは、風邪は大敵。 これも、同じですよね。
   外の部屋は、すきま風が入らないようにふさいで、あたたかくしてもらわなくちゃ。

   人間と違って僕達に起きやすい病気には、胃捻転があります。
   僕の回りだけでも、胃捻転で命を落とした仲間が何頭もいます。
      ( 「べーからの手紙」 No.54もお読み下さい。 )

   訓練所を晴れて卒業したセント・バーナード、その日、県外の自宅に帰るために
   ワゴン車に乗り込みました。
   立ち上がって、窓から顔を出してドライブを楽しんでいた時の急カーブ、
   はずみで、彼の体は外へ放り出されてしまったそうです。
   それでも元気に立ち上がり、無事帰宅。
   車を下りると同時にバケツの水を一息に飲み干し・・・そして、突然苦しみ出した。
   慌てて病院へ駆けこんだけれど、残念ながら、胃捻転で息を引き取りました。

   うちのホームページを見て、「我が家もセント・バーナードを飼っているんです。」と
   メールを下さった遠くの方がいます。
   何回かのメールのやり取りの後、パパは、「ご愛犬の写真を送って下さい。」と
   お願いしました。
   しばらく、その方からの返事はありませんでした。やがて届いたメール。
    「急死しました。胃捻転でした。
     病院に行くために車に乗る時は、自分で乗るほど元気だったのですが。
     夫婦で手術に立ち合いましたが、結局、そのまま目を覚ますことはありませんでした。」
   手術で運良く助かる場合もあるし、手術をしても、重症で命を落とすこともある・・。
   この方の悲しみは、まだいやされていないのかもしれません。

   2年前の、ヨハンのドッグショーデビューの晴れ姿を見に遠くから仙台へ駆けつけてくれた、
   パパとママの昔の仲間の方の大切なセント・バーナードも、突然のこの病で倒れました。
    「可哀想なことしたよ。苦しんでさ。
     でも、8才だったからな。バーナードの寿命と言えば寿命だったし・・。」

   胃捻転を起こして助かるためには、少しでも早く治療をすることが大切みたいです。
   でも僕達には、大急ぎで病院へ運んでくれる救急車は、人間と違ってありません。
   夜の突然の病気を診てくれる病院も、そう簡単には見つかりません。
   だから、せめてできるのは、胃捻転を起こすかもしれない体の動きには用心すること。
   訓練所では、1日2回の食事の後は、1頭ずつの犬舎の中での静かな休憩時間。
   食べたすぐ後に犬同士でじゃれたり、人間と遊ぶと、胃がびっくりして踊ります。
   焦るように大急ぎで食べたり、たくさんの水をがぶ飲みするのも、胃が拒否します。
     「ゆっくり食べて、ゆっくり休む。」
   体が大きくなる犬は、子供の時から、これを標語にするといいかもしれません。

   同じ病気でも、いくつもの幸運が重なれば助かるし、手遅れのこともある・・。
   残念ながら命を落とした仲間達の、冥福を祈ります。

                                   今日はここまで、またね。
                                                 Beethoven




ベーからの手紙      
  No.100 MAR.3. 2004
 
 元気ですか?
 風はまだ冷たいけれど、日射しは、もう春のよう。
 紅い梅のつぼみが、だいぶふくらんでいます。
 西公園の桜の枝払いも終わったみたいです。


   これまでにも何度もお話してきたけれど、僕達のように体の大きな犬は、
   運動不足や日光不足、太り過ぎが原因で脚が病気になることがあります。
   それから、病気とまではいかなくても、家の中で人間と一緒に生活していたり、
   歩く運動が足りなかったりすると、脚の骨の形が変わってしまうこともあるんです。
   僕達にとってはすべりやすい木の床。
   寝そべった状態から立ち上がろうとする時は、すべらないように踏ん張らないと
   いけないから、脚に力がかかるんです。
   まず後ろ脚をグッとかまえて、そして、前脚もツルッとすべらないように
   自分の重い体重を乗せるようにして力を入れる。
   これを、骨がやわらかい子犬の時から繰り返していると、どうなると思いますか?
   前脚は、カタカナの「ハ」の字のように開いた形に、
   後ろ脚は、ひらがなの「く」の字を背中合わせにくっつけたような、膝を寄せた形に
   なってしまうんです。

   僕が小さかった頃、つまりずっと昔は、こういうことを教えてくれる人が
   あちこちにいたそうです。
   たとえば、セント・バーナードと長い年月暮らしている人が、訓練競技会や
   ドッグショーで顔を合わせた時に、何も知らない新しい飼い主さんに伝えてくれたり、
   本当に僕達犬のことを思うブリーダー(繁殖者)さんが、生まれた子犬を
   新しい家族に手渡す時にいろいろと話してくれたり、訓練士さんが図を書きながら
   説明してくれたり・・。
   でも今は、その頃とはすっかり変わっちゃったみたいです。
   「セント・バーナードにふさわしい運動ができない人には飼育してほしくない。」と
   思ってはいても、ブリーダーさんは、欲しいという人には希望通り子犬を渡します。
   だって、生きてる子犬が売れ残ったら大変だもんね。
   僕がいっぱいお世話になった訓練士さんも、この間、こんな風につぶやいてました。
    「今は、うるさいこと言ったらだめな時代だからな。
      だから、昔と違って俺はもう何も言わないよ。」

   前足が「ハ」の字、後ろ脚が「く」の字の形になってしまった仲間達、
   後ろ脚を引きずって歩くほど脚が弱かった仲間達が、訓練所で数ヶ月間の
   厳しいトレーニングメニューを毎日こなし、食事も規則正しく変えて、
   残念ながら完全にとはいかないけれど、脚が見違えるように良くなって、
   うれしそうなご家族と家に帰って行くのを、僕は見てきました。
   僕自身、骨の成長期に陽の当たらない店の中で長い時間を過ごしていたから、
   後ろ脚を軽く引きずるような「くる病」にかかってしまいました。
   あわてて、パパとママに仕事の合間に時間を作ってもらい、
   毎日の日光浴、土の上を歩く運動をたくさんして、脚を丈夫にしました。

   僕のパパもね、この頃、こんなことをつぶやいています。
    「もう、うるさいこと言うのは、やめにしようかな。」
   仲間達みんなが、14才8ヶ月まで生きた僕のように、長生きができるといいね。

                              今日はここまで、またね。
                                                 Beethoven