ベーからの手紙      

No.112.DEC .7. 2004.


 
元気ですか?
とても風の強い日が続きました。
僕の家の回りは、枯葉がどっさり積もってはパパとママが
掃き出し、強い風であっという間にまた積もり・・・。
これを何度も繰り返して、ようやく林の木の枝も
裸になってきました。


今月の13日で、ヨハンがうちの家族になって3年が経ちます。
この頃、ヨハンが少しずつ変わってきたような気がするんです。

3年前に訓練所から家族として迎えた時、訓練士さんが考えたヨハンの
キャッチフレーズは、こうでした。
 「人にも、犬にも、環境にもやさしいセント・バーナードです。」
我が家へ来る前の数ヶ月を訓練所で過ごしたヨハンは、「しつけ教室」の
モデル犬として、訓練士さん達に1から教えを受けたようです。
そこでのヨハンは、誰にでも、どの犬に対しても、とても愛想のいい犬
だったんですって。
確かに、攻撃的なところは全くないし、ほとんど吠えないし、逆におとなし過ぎて、
まるで女の子のような印象さえ受けたものでした。
月日が経つうちに、ヨハンは男盛りの5才。
人間でも、10代のお兄さんと、30代・40代の大人の男の人とでは、
体の厚みや風格が違うでしょ。
ほっそりしていたヨハンも、胸の幅や体全体の貫禄が出てきて、
堂々としたオスらしいセント・バーナードになってきました。
(ま、僕にはかなわないけどね。)
 「可愛いメスを連れて歩いているようで、オスとしては物足りないな。」と
ちょっぴり不満をもらしていたうちの家族達も、「男らしくなった。」と、満足気です。
でも、見た目と中味は別。
外で知らない人に声をかけられても、愛想良くしっぽを振って
すり寄っていくヨハン。
1代目のベートーベンと僕の時は、万一何かあったら、身をもって家族を
守ってくれるという確信があった、とパパとママは言います。
 「でも、ヨハンでは・・・。」

昔、こんなことがあったそうです。
ママと1代目のべーが家の裏の林を散歩している時、木々に囲まれた奥から、
体格のいい男の子達が数人、多分、中学生か高校生が、姿を現したそうです。
そのうちの1人が手にしている缶には、「シンナー」の文字が見えました。
あっ!と思う間もなく、ベートーベンは猛烈な勢いで飛び出してママのそばを
離れ、激しく吠えながら彼らの前を横に素早く跳びはね、足止めをしました。
警察犬の言葉で「禁足(きんそく)」という行動です。
ママに言われるままにシンナーの缶を地面に置いた男の子達は、
早足で林の外へ出て行きました。

僕には、こんな思い出があります。
今は高校生のあゆちゃんが、人見知りをする小さな赤ん坊だった頃のことです。
歩道で、ママが抱っこしているあゆちゃんに、「まぁ、まぁ、めんこいこと!」と
大きな声をかけた人がいました。
その途端、「フギャ―!!」と突然泣き出したあゆちゃん。
何があったんだ? うちの家族に何をした?!
隣にいた僕は、その人に向かって怒って吠えかかりました。
「ごめんなさい。」とママは謝っていたけど、パパは、その人がいなくなってから
「ありがとな、べー。」と声をかけてくれました。

 「ヨハンじゃ無理だ。きっと、自分が真っ先に逃げ出すよ。」
さぁて、どうかな。
どんなに人間と一緒の生活をしていても、僕達には「動物の本能」というものが
あるからねぇ。
先月のことです。
夕方、だいぶ暗くなってから、人気のない国際センターの回りを歩いていた
ヨハンとママ。
誰もいないと思ったのに、ベンチの陰に身を潜めていたかのような若い男の人が
2人、スッと立ち上がると、黙ってこちらへ歩み寄ってきます。
細めた目でじっと見ながら、ママにグイッと近づきます。
その時、男達の前にヨハンが素早く割り込み、身を低くしました。
 「ウ〜〜〜・・・。」
それは、今まで1度も聞いたことのない、ヨハンが相手を脅す低音の
唸り声でした。
ヨハンが今まで1度も見せたことのない、険しい目つき。
 「ウ〜〜・・・。」
オスのセント・バーナードの迫力に、男達はそばを離れて行きました。

僕の跡継ぎとして、ヨハンは自分の家族を守りました。
どんなに、普段はボ―ッとしているように見えてもね。
この日以来、うちの家族がヨハンを見る目が、ほんちょっぴり変わったような・・
気もします。
 
                                今日はここまで、またね。
                          
                                        Beethoven


あたたかい晩秋の緑

晩秋の磐梯山

広瀬川沿いの遊歩道

国際センター入り口
No.111 No.113