ベーからの手紙      

No.137  2008年10月24日

 元気ですか?  
 ずいぶんと涼しくなりましたね。
 あゆちゃんは今、教育実習とやらで中学校へ通っています。
 食器棚で眠っていた中学時代のお箸とスプーンのセットが
 久しぶりに活躍、生徒達と一緒に教室で給食を
 食べているそうです。

さて、ヨハンはと言うと、どうも様子がおかしいんです。
こんなことは、今まで1度もなかった。
いつもと違うな、と感じ始めたのは、店でのお昼の散歩の時間が近づいた頃
でした。

最近のヨハンは、「散歩に行くよ」と体をゆすって揺り起こそうとしても、
大きな声で名前を何度呼んでも、「外に出よう」と体をたたいても、
とぼけて寝たふりを続けます。
顔をのぞきこむと白目をむいてみせたり、わざとのようにぐったりしたり。
年を取って動きたがらないのを無理に歩かせるのはかえって可哀想かと、
パパとママは、ヨハンを好きなだけ寝かせることにしました。
放っておくと、夕方までそのままぐっすり。
さすがに、こんなに長い時間おしっこをしないのは体に悪いと、夕方には
たたき起こして、面倒がるヨハンを引っ張って西公園へ向かう、
この頃はそんな日が何度かありました。

ところがこの日は、午前11時ごろ、2階の踊り場から前足を階段に
垂らすようにして伏せて、下を見下ろす目はキョロキョロと落ち着きなく、
しきりに何かを訴えています。
おしっこに行きたいんだ。 珍しいな、こんな時間に。
ヨハンのサインに気づいて、ママが外へ出る用意をします。
ヨハンは、先に立って階段を急ぎ足で下りていきます。
階段を駆け下りるなんて、いつもとはまるで別な犬みたいだ!
公園に着くと、ひたすら地面の匂いをかぎ回って、何度も何度も
ちょっとずつ用を足す。
夕方。 再び同じことの繰り返し。
夜。 店が終わって家に帰り着いた途端、悲しげに鼻を鳴らす。
 草の上をウロウロと歩き回り、匂いをかぎ続ける。
そして真夜中。 「ヒャイン!」というひと声に飛び起きたママが外へ
出てみると、つらそうな表情のヨハンが立って待っていました。
夢遊病のように暗闇をスタスタと歩き続け、ママにポンと体をたたかれると
ハッと気づいたように立ち止まる。
少しだけヨハンに水を飲ませ、おやすみと声をかけて、やれやれと
ママは布団にもぐりこむ。
と、同時に、また「ヒャイン!」のひと声。
これが明け方まで続きました。 2日間。

日曜日。
ヨハンの散歩から戻ったパパが言いました。 「血尿だ。」
ヨハンの足には血の跡がついています。
あわてて病院へ電話。 休診日だけど、診てもらえることになりました。
静かな病院の中。 2人がかりでヨハンを抱き上げ、ツルツルすべる
ステンレスの体重計へ乗せる。 60キロ弱。
休診日は、検査の機械はお休み。
ここ数日のヨハンの症状を聞いたお医者さんは、
 「食欲も元気もあるなら、おそらく単純な膀胱炎だと思います。」
つまり、朝から夕方までぐっすり眠り続けていたので、おしっこが
たまり過ぎた体が悲鳴を上げてしまったんですね。
注射を肩から2本。 薬を受け取って、診察は終了です。

どうやら薬が効いたらしく、ヨハンが夜中に「ヒャイン」の声を出すことは
なくなりました。
朝、いつものように店の階段を上がって踊り場へ。
体を横たえると、もうすぐに目を閉じる。
 (僕、あとはずっと眠ったままで平気だからね。)
そうはいかない、ヨハン。
お昼になったら、眠い目をこすってでも外へでなくちゃいけないよ。
また、真夜中の夢遊病犬になっちゃうから。


                            今日はここまで、またね。 
                                 Beethoven

色づく季節を迎えた神社の脇のカエデ

顔の左半分は、まだ白髪が少ない

ヨハンは、この上目づかいが曲者です

お城を模した公園のトイレ、工事のため取り壊し
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