ベーからの手紙      

No.143  2009年8月18日

 元気ですか?
 
 ヨハンが天国へやって来て、もうすぐ3週間になります。
 お店と家の中には、若々しい頃のヨハンの写真を
 額に入れて飾ってあります。

  
 
 「今、訓練所にいいオスのバーナードがいるぞ。どうだ?」
うちの店を訪ねてきた訓練士さんのこの言葉が、8年前のヨハンとの出会いの
きっかけでした。
 「大人になった犬を引き取るつもりはないですよ。会うだけなら。」
と言いつつ訓練所に足を運んだうちの家族。
ほっそりとした、まるで女の子のような2才のオスのセント・バーナード。
人に対して従順なのに、どこか疑い深そうな目つきのその犬を、
その日のうちに家に連れて帰ったのはもう遠い日の出来事です。

月日が経つにつれて、ヨハンは、性格も体つきも次第に変わっていき、
僕から見ても、悔しいけれど家族にとってなくてはならない存在になっていきました。
今年の春ごろだったかなぁ。
訓練所の所長さんがうちの店に来てこう言いました。
(ヨハンの時は“訓練士さん”だったけど、今は“所長さん”です。)
 「バナ子、いい犬になったぞー。」
ママは、即座に答えました。
 「そんなこと言ったって、ヨハンはあと2〜3年は生きるから無理。」

バナ子というのは、訓練所で生活している2才のバーナードの女の子です。
ほんの子犬の時に、「セント・バーナードが欲しい」という家にもらわれていくはず
でした。
ところが重い病気にかかってしまい、獣医さんにもさじを投げられてしまったそうです。
 「無理だ。この子はもう助からない。」
可哀相だけど、しかたがありません。
代わりに、別な子犬が新しい家族として迎えられていきました。

何をやってみても、病状は変わりません。
 「どうせだめなら、牛肉でも食べさせてみるか。ほれ。」
小さな命をあきらめかけた所長さんの奥さんが子犬の口元に持っていったのは、
上等な牛肉です。
  パクッ! 「え!?」  パクッ! 「なんだ!?」
・・・・こうして、子犬は死の淵からたくましくよみがえったのです。
名前は「バナ子」、所長さんが名付け親です。
生まれてからまだ3ヶ月のバナ子に訓練所で会った時、ママは、これまで
シェパードやドーベルマン達、警察犬と厳しく接してきている所長さんの姿に驚いて、
あんぐりと口を開けてしまったそうです。
 「バナ子、ワンって言いなちゃい、ワンって。そしたら、これあげまちゅよー。」
バナ子はそれから2年間、訓練所で大切に、そして多分、少し甘やかされて・・、
育てられてきました。

ヨハンが天国へ旅立ってしまってから数日後、うちの家族は訓練所へ挨拶に
行きました。
うなだれているひろちゃんに、所長さんが突然こう言いました。
 「バナ子と遊べ。その方が気が紛れるだろう。」
ひろちゃんはとっさに意味がわからず、ちらりとママを見ました。
 「考えずにすむから、バナ子を連れて行け。」
ひろちゃんは、ひそひそとママに耳打ちしました。
 「ねぇ、どういう意味?」 「バナ子を、うちに連れて行きなさい、って。」

ヨハンとの突然の別れがあまりにもつらく、毎日ため息をついて過ごしていた3人は、
迷わず新しい家族との道を選ぶことにしました。

ずいぶんと急な話だけど、ヨハン、君はどう思うんだい?
 イタリアに行ってるあゆちゃんにもちゃんと了解を取ってくれって?
わかった。すぐに伝えるよ。

                            今日はここまで、またね。 
                                 Beethoven

毛がふさふさとしている春のバナ子

サマーカットしている夏のバナ子

3月30日 イタリアへ旅立つ前日の、
あゆ&バナ子

自分の目の前でバナ子と遊ぶあゆを見て
呆然としていたヨハン
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