ベーからの手紙      

No.160  2013年4月17日

 元気ですか?
 春の花たちが、みんな一斉に咲いてます。
 ピンク、黄色、白、紫、赤、色とりどりのたくさんの花が
 太陽の下で輝いています。
 実は、今年の春、うちの家族は春の花を明るい気持ちで
 見られないんじゃないかと心配していました。
 でも、大丈夫。 うれしい春がちゃんとやってきました。


これまで、「大型犬は胃捻転になりやすいから気をつけるように。」と、僕達が
お世話になった訓練士さんから繰り返し言われてきました。
 「水を飲んだ後や食事の後、すぐに体を動かすと犬は胃捻転を起こしやすいから
 休ませて。」と。
ヨハンがうちの家族になり、“食が細くてやせていた”彼の食欲が旺盛になり、
猛烈な勢いで食事を食べるようになった時もこう言われました。
 「あわてて食べると空気が胃の中に一緒に入りこみ、胃がふくらんで胃捻転を
 起こす危険がある。ドライフードに水をかけて、ゆっくり食べさせるように。」
気をつけてきたつもりだった、と思うんですよ。
でも考えてみたら、パパもママも、胃捻転がどういう症状か知らなかったんです。
長い年月、僕たちセント・バーナードと一緒に暮らしてきて、「自分たちは
わかってる。」という油断もあったのかもしれませんね。

この冬、バナ子はひどい皮膚炎で苦しみました。
始まりは、雪が降ると道路にまかれる融雪剤のようでした。
冬休みで家に帰っていたひろちゃんが、バナ子の足先の小さな赤い皮膚炎を
気にしました。
 「これ、そのままにしておいて大丈夫なの?」
  「ベーとヨハンも足に同じ症状があったけど、なんともなかった。
   大丈夫だと思うよ。」  ところが・・・。
西公園へ向かう交差点やその周りでは、バケツで盛大に雪を解かす薬が
まかれます。その上を素足で歩き、赤信号を待つ時には座るバナ子の4本足と
お尻に、異変が広がっていきました。
皮膚が真っ赤になり、やがてただれてしまったのです。
治療のための薬を飲むようになってから、バナ子はとても水を欲しがりました。
きっと薬のせいでのどがかわくのだろうと、これまでよりも多く水を飲ませる
ようになっていました。
体中がアレルギーのようになり、症状はなかなかよくなりませんでした。

3月24日の夜、夕食から数時間が経って、バナ子は外へ出たがりました。
うろうろと歩き回り、いつまで経っても落ち着きません。
呼吸が苦しそうです。
どうしたんだろう。 薬の副作用? アレルギーの発作?
この時も、春休みで家に帰っていたひろちゃんが、バナ子のお腹に手を
当ててこう言いました。
 「いつもよりもお腹がふくれている。もしかして胃捻転なんじゃないの?」
パパとママもバナ子のお腹に手を当ててみて、そして首をかしげました。
 「いつもと変わらないと思うけど。」
やがて苦しみの症状は治まり、バナ子は寝息を立て出しました。
ひろちゃんの声に耳を傾けず、この夜を見過ごしたのがとんでもない失敗、
間違いだったんです。

3月25日、バナ子は1日中おとなしく眠っていました。
西公園へも、いつもと変わらずに歩いて行きました。
ところがその夜、前の晩と同じ発作のような症状が、夕食から数時間経った
頃に再び起こりました。しかも、昨晩よりもずっとひどい!
口から泡を吹き、息ができない様子でバナ子が苦しみます。
 「バナが死んじゃう! 救急病院へ!」

ヨハンの時は、到着する寸前で残念ながら間に合わなかった救急病院。
バナ子を連れて飛びこんだ診察室で、すぐにレントゲン撮影。
 「胃捻転です。手術を始めます。通常なら1時間半くらい、ひ臓まで
  いっていれば、もっと時間がかかります。」

ガーッ、ガガーッと、胃の中味を吸い出しているらしい音が、ドアの向こうから
響いてきます。
ピッ、ピッ、ピッ、と聞こえる定期的なリズム音は、バナ子の心臓?
生きてる、よね? バナ子、そうだよね?

1時間半は、あっという間に過ぎていきました。
2時間・・・3時間・・・手術はまだ終わらない。 どうしたんだろう。
バナ子、バナ子、おい、バナ子、いったいどうしたんだい?

明け方近くになって、ようやく扉が開いて先生が出てきました。
 「二百数十度の胃のねじれで壊死した範囲が広過ぎ、切除は
  できませんでした。ひ臓は摘出、食道もダメージを受けています。
  壊死した部分を胃の内側に折りこむようにして縫合しました。
  うまくいけば、壊死した黒い部分はやがて落ちて排出されるはず。
  だめであれば、胃に穴が開くことになります。
  できる限りのことはしましたが、予断を許さない状況です。」
長時間の手術は終わったものの、重い空気が家族を包みます。

朝9時、かかりつけの病院が開くのと同時に転院。
 「1週間もてば、助かる可能性はある。」と院長先生。
 「う〜ん、難しいと思う。1週間もって、助かったと思って安心したところで
  だめになった犬もいるから。 バナ子に万一のことがあったら、 
  娘さん大変なんじゃないの?」と訓練所の奥さん。

祈る気持ちで指折り数え、1日、1日がゆっくりと過ぎていきました。
ひろちゃんとパパが、毎日2回、病院へ面会に行きました。
すっかりやせ細ったものの、バナ子は自分の足で歩き、流動食を
とり始め、黒っぽい便も出ました。
何事もなく、1週間が無事に経過。もう1日、あと少し・・・。
そして、10日目。
 「退院していいですよ。」
待ちに待った言葉が、院長先生の口から出ました!
バナ子は、助かりました。 大手術は成功でした。

縫合したお腹の皮膚がなかなかくっつかないので、今はレーザー
治療に毎日通院しています。
 「おかしいと思ったら、とにかくすぐに病院へ行ってよ。」
東京へ戻ったひろちゃんからの電話です。
 「うん、わかった。そうする。」
ママが、神妙にそう答えていました。
お腹を保護するためにTシャツを着ているバナ子に「かわいい」と
声がかかります。
本当に「かわいいバナ子」に、早く戻れますように。

                            今日はここまで、またね。 
                                 Beethoven


胃捻転の手術から数日後のバナ子

病院の駐車場をひろとゆっくり歩く

噛んだりなめたりするのを防止するためカラーを装着

満開の梅を、バナ子と見ることができました
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