ベーからの手紙      

No 126.OCT.21.2006.


 
 元気ですか?
 家の前の柿の木、たくさんの実は鳥達がついばんで、
 枝の高い所にほんの数個、だいだい色の実が
 残るだけになりました。
 今は山のイガ栗達が、競争するようにはじけて
 飛んできます。
          ヨハンは、その音を聞きながら昼寝をしています。

先月、イタリアのセント・バーナード・クラブ(AISB)から新しい会報が
届きました。 表紙にはアルプスの写真。
あぁ、アルプスのサン・ベルナール峠でまたイベントがあったんですね。
人命救助で有名になる前の先祖達は、牛乳が入った重くて大きな缶を車に
積んで運んでいたそうだけど、僕らの仲間が引く車に子供が乗った写真。
いくら子供でも、でこぼこのアルプスの山道を人を乗せて車を引くのは
きっと大変だろうな。  セント・バーナードは、つらいねぇ。

表紙をめくると・・・あれ?
今までは、ここにクラブ会長のボノーミさんの挨拶の文章が載っていたのに、
名前がボノーミさんじゃありません。
それに挨拶を書いているロベルトさんの名前に肩書きはついていません。
つまり、今AISBに会長はいないっていうことなんでしょうね。
6月、パパ宛てにクラブの名誉会員証が送られてきた時は、
ちゃんと手紙にボノーミさんのサインがあったんですよ。
マガジンの1番後ろ、クラブのスタッフの名前一覧を見てみると、
うちの家族の友人、マガジン編集長のグイドさんが3つも役を引き受けて
います。
ヴィットリオさん(イタリアから日本にやって来たマーキュリー君の繁殖者)も
役員になったんですね。
 「去年、もめ事があって大勢の役員が辞めちゃったけど、もう大丈夫。
  きっとうまくいくさ!」
グイドさん、しばらく前にそう言ってたけど、本当に大丈夫なのかなぁ?
だって、ほら、僕達が首につける救助用の樽。 何ヶ月も前に、 
 「今度こそ信頼できる人がやってくれることになった。」って連絡が
あったのに、去年注文を出した樽が、まだ日本に届いていないんです。

 「グイド、きっと忙しいんだろうな。 どうしてる?
  家族は元気かい?」
パパは、グイドさんにメールを送ってみました。
 「やぁ、ヒロシ。 うちのマチルダ(マーキュリー君の姉妹)は元気だよ。
  実はね、クラブはまだ再出発がうまくいかずにいるんだ。
  たくさんの会員が入れ替わった。
  今AISBでうまくいってることと言ったら、クラブマガジンの発行だけ。
  それは、まさしく私の仕事さ。
  クラブの仕事に対する私への報酬は『充足感』だけなのに、
  その充足感が得られないまま働くのは、本当に疲れる。
  とても疲れたよ。
  私は、AISBの将来について悲観的になってる。」
今までトラブルが起こる度に、いつも「大丈夫、きっとうまくいくさ!」って
前向きだったグイドさんが、クタクタに疲れきっているなんて。
こんな弱気のグイドさんは初めてです。
 「何人かのブリーダー(繁殖者)とは、状況が解決の方向に向いている。
  ブリーダーのいきつくところは決してマーケット(高い価格で犬を売る)
  ではなく、より良い犬を生み出すことなのに。」

イタリアには、古くから大きなセント・バーナード・クラブがありました。
でも、純粋にセント・バーナードを愛したいという愛犬家達と、
生まれた子犬をどんどん高い値段で売りたい、そして、自分が
「セント・バーナード界の大物」になるんだ、という繁殖者達との間に
すきまが生まれたそうです。
遺伝的な病気を隠して子犬を売ってしまう繁殖者がいることも
問題になってきました。
 「それは、世界中どこにでもある問題だね。」
グイドさんは、何年も前にそう言っていました。

同じ気持ちの人々が集まって新しく作られたクラブが、AISB。
もう1つのイタリアのセント・バーナード・クラブでした。
でも、年を重ねるごとにイタリア中の会員の数が増え、イベントは
大きくなり、マガジンに広告を出すブリーダーも増えてきたのです。
そしてクラブが主催するドッグショーも、犬に順位をつけるコンテストだけに、
「楽しい集まり」だけではすまなくなってしまったんですね。
とても残念だけど、大きくなったAISBは、結局最初のクラブと同じ道を
たどることになったみたいです。
グイドさん、1人で重荷を背負い込んで倒れてしまわないかな?

 「ところで樽のことだけどね、我々も新しい樽が出来上がって届くのを
  待っているところなんだ。
  新しい樽職人はセルジオ。
  今まで彼はワインシーズンで(ワイン用の樽作りに)忙しかった。
  でも、そろそろ犬の樽の製作に取りかかるはずだよ。
  もちろん、出来上がったら真っ先に日本へ送る。
  去年注文してくれた人達にね。
  他にも注文待ちの人はたくさんいるんだ。
  君からもセルジオにメールを送ってみてくれ。」
ふうむ、ワイン用の樽ね。それも魅力的ですね・・。

グイドさんとパパの、今回の最後の会話です。
 グイド 「日本車を新車で買ったんだ。ワイフへのプレゼントさ。
       どうだろね、この選択は間違っていないかな?」
 ヒロシ 「日本の車に乗った君の奥さんは、きっと、
       もっと美人に見えるに違いない!」

グイドさんに元気を出してもらうために、何かプレゼントを贈りましょうか。
いつか、100円ショップで見つけたセント・バーナードのぬいぐるみを
送ったら、「君はいいやつだ! 素敵なものをありがとう!」って
とても喜んでくれたんですよ。
                           
                      今日はここまで、またね。

                               Beethoven

国際センター内 車は通れません

左と同じヨハンを反対向きに撮影

突き当たりはバス路線

西公園の桜ヶ岡神宮
No.125 No.127