ベーからの手紙      

No.149  2010年11月1日

 元気ですか?
 急に寒くなりましたね。
 冷たい雨が降り、イチョウの木から実が落ちて、
 冬の足音が聞こえてきそうです。
 バナ子は、ヨハンも使っていたマットの上で
 体を丸くして眠っています。



あゆちゃんは今、中学校で教育実習というのをやっています。
「これでほんとにコンクールに出るつもり?って思っちゃう。」と言っていた、
校内合唱コンクールに向けての受け持ちのクラスの歌の練習。
1週間後の本番では、このクラスが学年で最優秀賞を獲ったって喜んでました。
結果の発表の後、「先生、飲み会やっぺ!」と男子生徒に声をかけられた
そうだけど・・・中学生のはずなんだよなぁ。

学校が終わると、バスに乗り、地下鉄に乗り換え、またバスに乗って、
家にたどり着く夜には、あたりはもう真っ暗です。
 「今、バスを降りた。」 
あゆちゃんから電話連絡が入ると、さぁ、バナ子の出番です。
 「バナ、お姉ちゃんを迎えに行こう!」
バナ子はバッと立ち上がり、全身をブルブルッと震わせて出発用意。
そして、急ぎ足で暗い道を進みます。
ずっと向こうから近づいてくる人影に気づくと、とっさに身を硬くします。
 「ウ〜!」 警戒のうなり声を、ひと声。
でもその直後、もしかしたらあゆちゃんかな、と緊張をゆるめて小走りで
相手に近づきます。 
 「ワワン!」 これは、バナ子の喜びの声です。
だけど、やっぱり知らない人かもしれない。一応、用心しておこう。
バナ子は、そう思ったみたいです。再び体を緊張させて、「ウ〜」
そして、しっぽを振って「ワワワン!」、立ち止まって「ウ〜」。
つまり、どっちに転んでもいいように、歓迎と警戒を交互に繰り返して
いるんです。
やれやれ、用心深いと言うのか、気が小さいと言うのか、バナ子は
家族の体を盾にして少しずつ相手に近づくんだから。
 「バナ、ただいま!」
あゆちゃんの声を聞いて、ようやくほっとしたバナ子。
スピードを上げ、しっぽを振り回しながら駆け出しました。「ワワン!」

夕方の散歩では、あゆちゃんかひろちゃんが学校から帰ってきて
追いかけてくるのを期待して、バナ子は当たりをキョロキョロします。
自転車に乗った高校生の女の子やヒールの音を響かせる女の人を
見かけると、「もしかしたら・・」とその人が近づくのを待ちます。
他人だということがわかると、張り切っていたしっぽが、がっくり。
でも会えない日が続いて、バナ子も次第に2人に出会うのを期待しなく
なっていました。

そんなある日。 おや? あそこにいるのは、ひろちゃんじゃないかな?
散歩の帰り道のバナ子をびっくりさせようと、顔を隠すようにして大橋の
たもとにしゃがみこんでいます。
バナ子は、もうすぐ橋を渡り終えます。ひろちゃんに気づいて、きっと
大騒ぎが始まるぞ。 ほら、来た来た。
・・・あれ? あれれ、バナ子ったら、いったいどうしたんだい?
しゃがんでいるひろちゃんを疑い深そうな横目で見つめながら、
そのまま通り過ぎようとしています。
しょうがないなぁ、まったく。
おい、バナ子、嗅覚を使えよ、鼻を。 犬なんだからさ。
もっとしょうがないのは、うちの家族です。
こんなバナ子が、かわいくって仕方がない様子なんだから。

1代目のベートーベンは、林の中を散歩中に出くわしたシンナーを
吸っていた少年達の前に猛スピードで飛び出し、ママを守りました。
僕は、赤ん坊のあゆちゃんを泣かせた女の人を怒って吠えたことが
あります。(どういうわけか、その時は僕が怒られたけど。)
ヨハンも、国際センターの暗がりから男達が突然ぬっと現われた時、
ママをかばうようにしてうなり声を上げました。

バナ子が「ウ〜」とうなるのは・・・、自分が臆病で恐いからなんです。
まぁ、甘えん坊の末っ子じゃあ、しょうがないのかな。
                         
                           今日はここまで、またね。 
                                 Beethoven

あゆ&バナ子

こら〜っ、待て、バナ子!

ひろ&バナ子

こら〜っ、やめろ、バナ子!
No.148 No.150