ベーからの手紙      

No.107.AUG .7. 2004.


 
元気ですか?
 今年の夏はあまりにも暑くて、僕達は残念ながら、
 元気!ってわけにはいきません。
 どうしたら少しでも涼しくなるか、家族の人達は、
 きっといろいろと工夫してくれてるでしょうね。


ヨハンの夏対策は、まず、全身のフサフサとした長い毛をバリカンで短くするサマーカット。
去年は、毛を短く刈り過ぎて皮膚がカミソリまけを起こしちゃったから、
今年は訓練所のお姉さんにお願いして、ちょっと毛を残してもらいました。
店で過ごす間は、エアコンを強過ぎないように注意してかけて、
さらに扇風機で空気を回します。
日中の散歩は、ヨハンが用を済ませたら、すぐに店に戻ります。
家に帰る頃にはだいぶ気温も下がっているし、ヨハンの部屋は木に囲まれているから、
夜は、風が吹くとサワサワと気持ちがいい時もあります。
あんまり暑いと水をたくさん飲みたがるけど、お腹をこわすこともあるから
飲み過ぎないように注意しないとね。

ヨハンには至れり尽せりのパパとママだけど、僕では・・、実を言うとね、
真夏に1度、暑さで失敗したことがあるんですよ。
あれは、お店を始めて2度目の夏、だったかな。
最初の夏は、僕は勉強のために訓練所で寄宿生活をしていたから、
お店にはいませんでした。
そして無事卒業して、家族と一緒の生活。

その頃の店には、お客様にコーヒーを飲んでいただく場所があって、
お昼休みの時間はいつも大忙しでした。
「悪いな、べー。」と僕は店を追い出され、僕の居場所にもお客様用の席が用意されます。
僕は、どうなるかって?
店と道路をはさんだ向かい側の駐車場に停めてある、車の中だよ!
ワゴン車の窓を開けて、そして、僕が外へ飛び出さないように運転席の後ろに
パパが仕切りを取り付けました。
そりゃ、春まではよかったよ。
お昼の1時間くらい、車の中でなんとか我慢できた。
でも、夏の車の中は・・・、窓を開けたくらいじゃ、ひどいもんさ。
特に、僕達、セント・バーナードにとってはね。

「べー、店のために辛抱してくれ。」
その日は、お日様の光がジリジリと激しく照りつけて、車に入る時、
いやぁな予感がしました。
車のドアがバタン!と閉められ、僕は、カンカン照りの駐車場に1人ぼっち。
それでも、ずいぶんと長い間、こらえたんだよ。
暑いよ・・・助けて・・・つらいよ・・・いくら心の中でつぶやいても、
お店の中で忙しく仕事をしているパパとママには、聞こえるはずもない。
これ以上、車の中でじっとしていたら、僕は絶対にだめになる。
こうなったら、自分でなんとかするしかない!
僕は立ち上がって、運転席との仕切りに思いっきり頭突きした。
ゴンゴンッ!  ドンドンッ! 1回、2回、3回・・、何度も!
よし、すこーし、曲がってきた。すきまに頭を突っ込んでみる。
・・・まだ、だめか。 それっ、バコンッ! バコンッ! バコンッ!
今度は頭が入りそうだ。
グググッと無理にでも・・・ハァハァ・・・ひと休みして・・・、
僕の体の重みで仕切りがだいぶゆがんできた。
ムムムムーッ・・・と、・・・抜けた!

僕は、運転席の開いている窓から地面へ飛び下りた。
まっすぐ駐車場の出口へ歩いた。
わき目もふらず、道を渡った。
車が来てたかどうかなんて、何も見てなかったから覚えてない。
店の前へ来た。
ちょうど、入り口のドアが開いた。
出て行こうとしていたお客様の脇をすり抜けて、僕はスタスタと店へ入った。
お昼休みの時間も終わりに近づいていたらしく、次々とお客様が席を立っていた。
みんな、入って来た僕を見て、あっけにとられた顔をして道をゆずってくれた。
僕はそのまま店の奥へ進み、僕の居場所(お昼には椅子が置いてあるけどね)に
ドスンと横になった。
ちょっとの間、お店の中はシーンとしていたけれど、やがて、
お客様達はガヤガヤと外へ出て行った。
パパとママは、ポカンと口を開けて僕を見ていた。

この日以来、僕は、お昼の忙しい時間は、僕の居場所に置いたケージ
(折りたたみ式の犬舎)の中で過ごすことになりました。
今年は、まだまだ暑そうから、お互いに気をつけて夏を乗り切ろうね。


                                  今日はここまで、またね。
                          
                                                 Beethoven
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